帰省 お袋のこと



お袋は脳梗塞らしい。先日、姪っ子と近くの温泉施設に宿泊した時に、ベッドから落ちたそうだ。それが原因かどうかわからないけど、救急車で担ぎ込まれた病院の医師の診断では、重度ということらしい。
13日の朝、兄貴が学校の交通安全係で出かけようとしたときに部屋の中をウロウロしていたらしい。片づけデモしてるのかな?と思って出かけたそうだ。その後、兄嫁がお袋と話をしたところ「トイレに行きたいんだけどどこかわからない」と言ったそうだ。おかしいと思って、近所のかかりつけ医に行って。やっぱりおかしい、脳梗塞の疑いがあるとのことで大きな病院に行って診察した、という流れ。
CT?なのかな、画像からは発症して数時間経過している状況だとの判断で、この10日くらいが山になりそうだと言われたらしい。ここまでの話を聞いていた。
それ以上の状況もよくわからないまま、大阪から新幹線で北九州、小倉へ。19:13着。
駅そばで兄貴にピックアップしてもらって車で病院に向かう。
最初に兄貴がグズグズ言いはじめた。「すぐに救急車呼べばよかった」とか。仕方ないやん、その時気づかなかったこととか、それは。
今の状況などを詳しく聞かず、途中から黙ったままで車が進む。19:45入館。
北病棟の8階。少し待たされて、面会。四人部屋の右手前のベッドにお袋はいた。
ベッドのサイズに対して体がやたらと小さい。天地がものすごく余ってる。こんなに小さかったかな?歳とってさらに縮んだのかな?とかを考えてた。
目が開いていて、体も動いてる。言葉も喋れる。恐れていた最悪ではないようで少しだけ、気持ちが緩む。
いつもかけている眼鏡をかけてないせいか、それとも脳梗塞のせいか、見えているのかいないのかがわからない。顔を見せても驚きとか気付きの反応はしない。
言葉は聞き取りづらいけど、そこそこ流暢でろれつはまわっている。やや滑舌が甘いこと、声量が少ないこと、話が散らかりがちなことから、しっかりコミュニケーションできている感じとまではいかない。
鼻のところに青タンがあり、毛布から出ている右腕にもあざっぽいところがある。点滴を打ってるから、そのせいなのかな??
兄貴が
おさるさんがきたよ
と言ってくれる。
おさるさんは東京やろ?
と、会話が繋がってる。ただ、やっぱり驚いたり喜んだりの表情にはならないのがちょっと不安になる。
土曜に、30分くらい電話で話をしてたんだよな。その時に比べると確かに全然違う。でも、重度の脳梗塞、と言われてイメージしてたものとはかなり遠い。安心、ということではなく、かなり良くない状態なんだろうけど、最悪って感じではない、と思った。
短時間の面会、と言われていたので、負担もかけないようにと適当なところで兄貴が切り上げようとする。
疲れたろうけ、はよー寝り
と言うと
目を閉じたら怒られるんよ
と応えてる。あまり早寝しないように、寝過ぎないように言われてるのかな?会話が成り立っているし、聞き取りづらいけれども聞き取れる。
その時、ふと、お袋が言った。
◯◯◯さんのお父さんは大丈夫ね?
…おれの友達の親父さんのことだ。調子が悪くて、普段の電話の中でもいつも気にしてた。まさか、この状態でそんな言葉を聞くとは思ってなかった。驚かされて涙が出た。
少なくとも今の時点では、身体の動きとかは十分ではないけど、頭の中は大丈夫そうだと思った。
手に触れてみた。握り返したりはしないけど、痩せて筋ばった最近のお袋の手だ。変に震えたりもしてない。
何度目かのくり返しの
じゃあ、また来るね
を伝えて、病室を後にした。
正直、少し救われた。
あえて、兄貴には詳しくは聞かなかった。自分で見て感じて判断しようと思ってたから。
短時間の面会で自分が感じたのは、今日の時点では兄貴からの第一報で恐れた「もう終わってる」って状況からは少し距離があるってこと。もちろん、88歳の体力とか、食事がとれないこととか、これからの進行とか、頭の中の様子のこととか、全く予断を許さないんだろうけど、急いで帰ってきてよかったと思った。
その後で兄貴から、前日の会話の録音を聞かせてもらった。その時のほうがよほどろれつが回っていない。
兄貴は「昨日よりもよくなっている」と言ってた。
予断を許さないけど。
頑張れ、お袋。
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