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親父のこと 2013年4月20日

ブリューゲル ブリューゲル ブリューゲル


家族で旅行に行った。 おそらく、家族そろっての最後の旅行だ。
覚えていることを、できるだけ書き残す。


翌日は、以前から家族で旅行に行くことになっていた。 うちは実家で飯屋という商売をやっている都合もあり、僕が帰省するのが週末ということもあり、今回は両親と僕の3人で行く予定だったが、予約や仕出しが入っていなかったために急きょ、兄貴家族も揃っての7人での旅行に変更。

行く先は、事前には熊本県の天草に行く予定にしていた。 お袋が親父に行きたいところを聞いた際に、天草というリクエストがあったそうだ。 が、天草は「高速降りてか2時間くらいかかるぞ(兄貴談)」ということ、この週末は天候が悪くなるということから、山口県の長門湯本温泉に変更になった。

こういった、諸々の変更が後に効いてくることになる…


その日の朝、僕が起きて下の階に降りたころには親父も目が覚めていた。 新聞と老眼鏡を親父のベッドの横のテーブルに置く。
はい。
おぉ、ありがと。
親父はベッドの腰かける形で新聞のほうを見ているが手を伸ばさない。 しんどいのかな、興味が薄れたのかな…わからない。

少し遅めの朝食をとる。 親父が寝ている部屋の隣の部屋。 姪っ子と僕と食べていると、お袋が親父を呼ぶ。 よたよたと歩いてきて、椅子に座る。 ちょっと歩くのがおぼつかず、いろいろと支えにしながらだが、ある程度は自分で動ける。
椅子に座って、お袋がおかゆの入った茶碗とスプーンを渡す。 受け取るが、食べる気配がない。 じっと見たり、周りを見たり。 目に力はあるが、気持ちがここには無いような感じだ。 前の日に送りつけておいた佃煮を促してみる。 姪っ子には好評で、どんどん食べているが親父の反応はない。 食欲がないのかなぁ…どうしたんだろう?
ほとんど食べないまま朝食が終わってしまった。

やがて、兄貴と親父で床屋へ行く。 いつも短髪にしている人だから、確かに今は少しぼさぼさな感じだ。 床屋に行くための車に乗せる作業が一苦労。 車高が高い車なので、一段上がるような乗り方になるが、その一段をあがることができない。 もっと言うと、その手前で玄関に降りて行って靴を履くことができない。 お袋と兄貴と僕で手分けしたり支えたりして…何とか乗せる。 この時点では親父はそこそこ動いていた。 扉につかまり、足を前に出していた。

帰ってきた親父はさっぱりとしていた。 ちょっと一息ついて、いざ旅行に。 着替えて車に乗せるが、さっきよりも動きが悪い。 それでも、まだ少し自分で動いてくれる。
運転は僕がすることになり、久しぶりにハンドルを握る。 新しい車、雨、久しぶりの運転…緊張しないわけがない。 救いはほとんどが高速道路だってことだ。 1時間くらい高速を運転して、30分程度一般道を走って到着。

宿について車から降ろそうとするが、かなり苦労する。 体を支えるために車の中にある手すりをつかむ。 普通なら動くときに手すりを離してみたり握り方を変えたりするが、一度握ると離せない。 意識がどれくらいあるのかわからないが、動けていない。 それでも、兄貴と二人で何とか車いすに乗せる。

受付のある広いラウンジで、抹茶をいただく。 外郎をいただく。 抹茶碗を持たせると落してしまうかな、と思ったけれども、一応ちゃんと持ってる。 小皿の上の外郎をみて
お、外郎も
と催促する。 包みを向いて渡すが、食べれない。 小さくちぎると一口食べた。 その後、抹茶が飲みたいと言っていたので渡すときれいに飲み干した。

車いすのまま部屋に移動。 兄貴家族は7階の部屋、親父、お袋、僕は5階の露天風呂付きの部屋だ。 兄貴たちは自分たちの部屋で荷物を置いている間に、僕らも部屋に入るが、ふと。 お袋と二人で親父を部屋に入れないといけない。 これは結構大変だ。
入口で、備え付けの靴箱近くまで車いすを動かす。 靴箱を支えに、もう片方の手には杖を持たせて、親父を車椅子から立たせる。 後ろから両脇の下に手を通して、抱きかかえるようにして歩かせる。 和室だったが、ソファがあったのでそこに座らせて一息。 あとは姿勢を整えてあげる。

なんだか眠たそうな気配もするが、意識もそこそこしっかりしている。 早速、お風呂に入れてあげよう、ということになる。 親父を支えて立たせ、座椅子や引き戸の枠など、いろんなところを支えにしながら浴槽近くへ。 ゆっくりと衣類を脱がせてあげる。 露天風呂は2段のステップがあり、風呂枠があり、その先が湯船だ。 とりあえずステップに座らせ、一段、一段と上にずりあげながら入れることができた。
湯船の親父はとても気持ちよさそうだ。 お袋が僕に
一緒に入りなさい
と促すが、万が一トラブルがあったときに僕もすっぽんぽんというわけにもいかない。
俺はいいからさ、お袋が入りなよ。
長年連れ添ってきた夫婦だ。 一緒にのんびり露天に入ってほしく、軽く目隠しになるように障子を閉じて僕はテレビを眺めていた。
やがて、
身体をする(=洗う、ということ。九州の方言なのかな?)
と親父が言うので湯船から引き上げ、椅子に座らす。 洗うことはお袋に任せて、また部屋へ。 終わったころに戻り、そのまま上がるのかな、と思うと、また入るという。 抱えてもう一度、最初のステップ、次のステップ、浴槽の縁と引き上げて風呂の中へ。 水圧のせいかな、身体を楽そうに動かしていて、本当に気持ちよさそうだ。

そういえば、親父を風呂に入れる前に兄貴から
大浴場行くぞ
って誘われた。 が、よくよく考えると僕がそこにいくと親父は風呂に入れない、ということだ。 お袋ひとりじゃ無理。 そんな状態なんだな、と思っているうちに、親父も風呂から出るという。 お袋と支えて立たせて歩かせて、その間に体を拭いてうまく衣類を着せて…ばたばた、とソファまで戻した。


兄貴たちも大浴場から帰ってきたので、交代で僕も浴場へ。 広くて人もそこそこいる。 のんびりと、露天やらジャグジーを楽しんだ。

食事の時間。 掘りごたつ式の座敷と言われていたがテーブル席に変えてもらい、車いすに乗せたままテーブルへ。 表用の車いすと、食堂用のホテルが用意した車いすとを乗り換える際、支えてくれたスタッフの顔を妙に親父が凝視している。 驚いたような表情で、じっと見ている。
ご飯を食べている最中に
あの、なんで後藤さんがおるんかの?
と言い始めた。 後藤さん? お袋も兄貴も思い当たる節がない。 さっきの表情を見ていた僕は、もしかしたらその人がやたらと後藤さんに似ていて、それでそんなことを言い始めたんじゃないか?と思うが…兄貴もお袋も、何となく親父の「うわごと」に話を合わせている。 どっちが本当なんだろうな?

ビールを2杯くらい飲んで、サラダ、肉、刺身などをほんの数口ずつ。 それでも、しっかりと自分で箸を握って食べていた。
お袋がバカなこと言い出す。
おとうさん、私たち、50年にちょっと届かんね。 47、48年目くらいだったね。
まだ終わってない。 気休めを言うことができず、僕は黙って聞いていた。 言葉を継げず、ビールを飲んでごまかしていた。 涙が滲んだ。
家族


やがて夕食も済、部屋へ戻る。 僕は少し飲みすぎて、部屋に敷かれていた布団に横になると、いつのまにか眠ってしまっていた。



◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ 

 つけてみました。 
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