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自分の弱さ

僕には自慢のおばさんがいる。 おふくろの、お兄さんのお嫁さん。 だから僕のおばさん。



このおばさんはすごい人だ。 僕が記憶に残っている初めの頃から片足が不自由で、その足を引きずるようにして歩き、杖を必ず持っていた。 地べたに座ることも一苦労なので、いつも椅子に腰掛けていた。 おばさんは多分、もっと昔からそうだったに違いない。 なのに、いろんなことを勉強して吸収して秀でていた。

おばさんの家に行くと額縁に賞状がいくつも飾られていた。 おばさんは洋裁をやっていた。 その賞状は当時の「内閣総理大臣賞」の賞状だった。 何枚もあった。
一度おばさんに聞いたことがある。 「もしかしてね、時代とかね、九州っていう地方であることとかが少し違ってね、おばちゃんが東京とかにいて、もう少しそういった環境の中にいたら、プレタポルテとかオートクチュールのブランドのデザイナーになってたのかな?」って。 おばさんはニコニコ笑って「そうやね?」て言ってた。

歳を重ねた後、おばさんは水墨画をやるようになった。 僕が大学に通ってる頃、一度銀座で個展を開いたことがある。 当時の彼女と二人で見に行った。 銀座の資生堂の近くの小さな画廊だったが、おばさんの絵が飾られてた。 僕はその頃は絵なんて全く興味もなく、ただ眺めてた。 「あんたがね、家を持ったときに飾られような絵を書いておくからね。」 それから何年後かにおばさんは大きな絵を僕にくれた。

自慢のおばさんだ。 今でも心の中ですごく尊敬している。



おばさんは2、3年前から痴呆になった。 去年かな、施設に入ることになった。 自宅だと転んだり、いろんなものがあって危ない。 実際に転倒してあざを作っりしてたらしい。 

僕は弱い。 施設に入るって聞いて、会いに行く勇気がなくなった。 弱くなったおばさんを見たくなかった。 声をかけて、僕のことがわからなかったらどうしたらいいんだろう。 おばさんがわけわからないことを口走ってる姿を見たら、どうしたらいいんだろう。
でも、そのときにふと思った。 「このまま施設にいて、さらに年老いて寝たきりになったら、僕は本当に会いにはいけない。 今なら、多少なりとも体が元気な今ならまだ顔を見に行くことができる。」

思い立って帰省した。 姪っ子とおふくろとおじさんと見舞いに行った。 施設に入るときどきどきした。 おばさんが車椅子で近づいてくるときに逃げたくなった。

「元気そうやん。」気持ちとセリフは一致してなかったけど、精一杯話し掛けた。 おばさんは僕が誰かはわかってなかったけど、比較的平穏に何か小声で言っていた。 初めて痴呆に接した。
できるだけおばさんに触れた。 手のひらに、肩に。 震えている自分に気がついたけど、触った。 
僕はもしかしたら二度とこないかもしれない。 おばさんの体力が落ちて、痴呆が進んだらもう来ることができないかもしれない。 そう思いながらおばさんに触れて、話し掛けた。

最後までおばさんは僕が誰だかわからなかったと思う。 ただ、おばさんがおふくろの名前を呼んだ。 一度だけだったけど。


施設を出て、「車持ってくる」って言いながら僕は一人で先に歩いた。 歩きながら涙が出た。 悲しかった。 でも、救われた。 悲観してたよりも元気そうな姿だったことに。 おふくろの名前を呼んでくれたことに。 涙はどんどん出てきた。 ポロポロ落ちた。 そのまま少し泣いた。
悲しかったし、嬉しかった。

それ以来、見舞いに行っていない。 また行きたくなった。 人は朽ちていくけど、感謝の気持ちを伝えたい。 一方通行ならそれでも構わない。 行きたい。 会いたい。 触りたい。 

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